桜は全然咲いていない。

半分も、きっとまだ。


あたしは大きな桜の樹にもたれて、空を眺めた。

冬みたく澄み切ってない、春霞のかかった、曖昧な空。

あたしの心みたい。


あの時からずっと時は止まったままで、何かはっきりとしない。


涼介のことを諦めきれたのか。そうじゃないのか。

好き? って聞かれたら好き、って言うし、
嫌い? って聞かれても嫌い、って言うと思う。

そんな、曖昧な感情。


それがなんだか不安で、辛くて、苦しくて。


だけど、美由紀には相談できない。

美由紀には、もう忘れたよ、って言っちゃったし、
日南は最低な奴だったんだよ、って言われたし。


伸びをするように空に向かってまっすぐに手を伸ばす。

指の爪が桜の花びらに見えた。


あたしは手が小さい。

涼介と付き合ってたときも、言われた。


『おもちゃみたい』

って。

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おもちゃ。

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あたしは、涼介にとってただの遊び道具でしかなかったのかな…?