「なんで、泣いたの」

ピアノを弾き終えた井上君にあたしはこう聞かれた。

「分からない…。あたしにも分からないの…」


「…聞いてくれて、泣いてくれてありがとう」

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「え?」


どういうこと…?

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「オレには、ピアノで人の心を動かせるくらいの、
泣かせられるくらいの力があるんだ、って認識できた。

オレは、最近先生に怒られっぱなしで…自信失くしてた。

だけど、えっと…」

「北条美雨」

「…北条、さんに泣いてもらって、自信ついた。本当、ありがとう」

泣いたことで感謝されたことにとても驚いた。

だけど、それくらい井上君のピアノには力があった。

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「オレは」

「井上、一樹君。だよね?」

そう言うと、井上君は心底驚いていたような顔をした。


「あ、うん。でも何で…」

「有名だよ」

「そう、なの…? 光栄だな」


あたしたちは二人で笑いあった