「…あれだよね? 北条さんの絵…」

「そうだよ」

井上君はあたしの絵をまじまじと見つめていて、一言も発そうとしない。

だんだん不安になってくる。

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そしてしばらくの後、井上君はいきなりため息をついた。


え、まさか幻滅しちゃったとか?

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「…あたしの絵、気に入らなかった?」

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「…」

井上君はまだうつむいて動かない。

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「井上君…?」

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「…あの時の北条さんの気持ち、分かった気がする」


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あの時?

いつか分からずに首をかしげていると、


「オレのピアノを聴いて泣いた時、あっただろ?」

「あぁ! うん」

「そんな感じ…。
なんか、何にもいえなくて、呆然とした…。

圧倒された、って言うのかな…? …とりあえず、感動した」


嘘…嘘!


「ありがとう、嬉しい!」

そんなに気に入ってくれるなんて、本当、嬉しい…。


「本物の夕日以上だったよ…。心が吸い込まれそうだった。

あんな素晴らしい絵を見せてくれてありがとう」


「こちらこそ。感動してくれてありがとう」

「涼介に…て…たな」

「何か言った?」

「ううん、何でもないよ」

「そぉ?」


涼介、って聞こえた気がしたんだけどなぁ…。ま、いっか。

「じゃ、また明日」

「明日ね。バイバイ」

井上君は手を振りながら駅の階段をのぼっていった。


くすっと小さな笑みがこぼれた。

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ほめられるって、嬉しいことなんだ…。

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とても、とても嬉しいこと…。