朝は大体、一時間目が始まるまで美術室で過ごす。

グラウンドから朝練のある運動部の声が聞こえるだけで、とても静かだ。

放課後と変わらず薄暗くて、眠たくなってくる。

うつらうつらしていると、教室の後ろにある扉ががちゃりと音を立てた。


「?」

見たことのない男の子…。少し日に焼けていて、やんちゃそうだ。

「…あ。…すみません、忘れ物をとりに来たんですけど…」

「あぁ、青い絵の具?」

「はい!」

「ちょっと待ってね」


確か用具入れに先輩が放り込んでたな…。

あ、あった! 西野、幸也君…。一年生か。

「どうぞ」

「ありがとうございます!」

「どういたしまして」

男の子は頭を下げた。

そして顔をあげたとき、何かを見つけたのか、声を漏らす。

「…どうしたの?」

「その桜の木…学校に行く道にありますよね?」

「分かる?」

「絵が上手いので」

お世辞って分かってるけど、嬉しいな。

「お世辞じゃありませんよ」

西野君はあたしの思いを読み取ったかのように言った。


「ありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございました。

じゃあ、朝練に行かなくちゃ行けないので、お邪魔します」

「…サッカー部?」

朝練…今日はサッカー部だけのはず…。

「え、はい…」

不思議そうにうなずく。でもその後、何かひらめいたような素振りをした。

「日南先輩の彼女さんですか?」