教室に戻り、席に着く。
うつむいて唇をかみしめている井上君を見て、
あたしは無意識にこう言っていた。
「今日、井上君のピアノが聴きたい」
「いいけど…久しぶりだね」
そう、とても久しぶり。
美由紀と井上君が付き合いだしてから、
あたしは二人に遠慮して、井上君のピアノを聴いていなかった。
「久しぶりに…聴きたくなったの」
「そう…。なんだか嬉しいな」
.
.
その日の放課後、あたしと井上君は二人で音楽室に行った。
井上君は黒く光るグランドピアノに手をかけ、ゆっくり開ける。
たちまちにモノクロの世界が広がる。
そっとピアノをいたわるように指を置き、
前触れも何もなしに奏ではじめる。
いつもと同じ。
だけど、いつもと音色が違った。
.
.
どこか悲しそうな、儚くて、少しでも触れたら壊れそうな音色。
.
.
.
今日のピアノには、あたしは泣けなかった。
うつむいて唇をかみしめている井上君を見て、
あたしは無意識にこう言っていた。
「今日、井上君のピアノが聴きたい」
「いいけど…久しぶりだね」
そう、とても久しぶり。
美由紀と井上君が付き合いだしてから、
あたしは二人に遠慮して、井上君のピアノを聴いていなかった。
「久しぶりに…聴きたくなったの」
「そう…。なんだか嬉しいな」
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その日の放課後、あたしと井上君は二人で音楽室に行った。
井上君は黒く光るグランドピアノに手をかけ、ゆっくり開ける。
たちまちにモノクロの世界が広がる。
そっとピアノをいたわるように指を置き、
前触れも何もなしに奏ではじめる。
いつもと同じ。
だけど、いつもと音色が違った。
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どこか悲しそうな、儚くて、少しでも触れたら壊れそうな音色。
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今日のピアノには、あたしは泣けなかった。
