「もう、この桜も見納め…か…」


あたしはあの桜並木に来ていた。


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思い出の場所。

楽しい思い出も悲しい思い出も全部全部つまった、大切な場所。


だけど、もうここには来れない。


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風がざあぁっと吹き抜け、降り積もった雪を散らす。

散った雪が太陽の光に照らされて、ちらちらと輝く。


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「あ…一輪だけ咲いてる…まだ冬なのに」


あたしは桜の樹に、一輪だけ咲いた花を見つけた。

しかし、その桜ははらりと落ちてしまった。


あたしはそれを拾おうとしゃがみこむ。

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「!」


あの人の姿が目の端に映り、桜の樹の裏側に隠れる。


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どうして、ここにいるの…?

あたしの心臓が少しずつ早く波打ち始める。


けれど、あの時と同じ…。


このまま通り過ぎてくれれば…。

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「もう俺はこのまま通り過ぎたりしないよ」

樹のちょうど裏側で声がした。