「え…」

空を見上げる。

「雨だ!」

「何よ! 夕立?」


雨は少しずつ激しさを増す。

周りの人たちはみな、手で頭を覆いながら、屋台や近くの軒に走りこむ。


あたしも駅に戻ろうと急ぐ。


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最初から、あんな夢を見なければ良かった。

そうすれば、傷つかずに済んだのに。


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心から一樹を愛せたのに。

だけどあの時から、あたしの心は止まったまま。


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「あっ…」

すれ違った人と肩がぶつかり、携帯が水たまりの中に沈む。


「どうしよう、ごめんなさい!」

あたしは焦ることなく、

「いえ…いいんです。…壊れて、良かった」

と言った。


ありがとう。逆に、壊れてよかったの。

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これで、涼介のことを忘れられる。

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「…えと」

あたしの言葉に戸惑ってる。


「大丈夫だから、行ってください」

「…はい…本当にごめんなさい」

彼女はあたしに頭を下げ、ぱたぱたと駆けていった。

あたしはもう電源が入らない携帯を拾い上げ、立ち上がる。


開いても、案の定、真っ黒な画面が広がっていた。

外にもコンクリートですれた傷がいくつもついていた。

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あたしはもう濡れることも気にせず、ゆっくり歩いて駅に向かった。

涙がこぼれないように上を向きながら。


でも雨と溶け合って、自分が泣いてるのかさえも分からなくなった。