「それ」は、ゆっくりと(首なんて無い様に見えるのに)、頭を動かして、こっちを向いて。

お尻からへたり込んで、動けなくなっている私のほうを見て。

「オイ」

と「それ」は言った。

「ナニ固マッテンダヨ、コラ」

と「それ」は言った。


まず、

「それ」がなんなのか見当もつかなかったし、なんで「それ」が喋っているのか理解できないし、しかも、もの凄く言葉づかい悪いし。

当然、何も言えずに、わたしはただ、座り込んでいて。


「オイ」

と、また「それ」が話しかけてきた。

「見エテンダロ、オマエ、俺ノ姿ガヨ」

相変わらず「それ」は、ぶっきらぼうに、言葉を投げかけてきた。

「ヤレヤレ、俺様ノ『咎送リ』ノ相手ガ、コンナ小娘トハナ」

バランスの悪い長い前足を、まるで肩をすくめているかのように持ち上げつつ、頭を左右に振って、ため息までついている。

怖くて怖くて仕方がないのだけれど。

悲鳴は最初に上げたきりで、もう喉が引っ付いてしまって声が出ないのだけれど。

震えが止まらないのだけれど。

なぜか無性に腹が立ってきた。

なんでこんな白い毛玉化け物なんかに、いきなりこんな悪態をつかれなければならないんだろう。

もしかしたら、度を越えた恐怖によって神経が麻痺し、いつもだったら出来ないような、考え付かないような行動に出てしまったのかもしれない。

「……、ちょっと」

つい、話かけてしまった。

話しかけておいて、しまった、と思った。

白い毛玉化け物が、こっちに近づいてきたからだ。