犬かと思った。猫かもしれない。もしかしたら、狸かも。

道路に、車に轢かれた狸が横たわっているのを見た時、どれだけ田舎なのかここは、と思ったことがある。

電信柱の影で動く何かは、とりあえず、それらのどれでもなかった。

わたしは暗い気分だった。この町に来てから、明るい気分になったことは無かった。それと同時に、激しく驚くような、感情の波も無くなっていた。

だから、この町に来てから、初めてだった。

悲鳴を上げたのは。


それは、小さい、不気味なイキモノだった。

猫くらいの大きさの「それ」は、全身、白い短い毛で覆われていた。

角が生えていた。複雑に枝分かれした小さな角が、頭……らしき箇所から生えていた。

頭というには、それはあまりに大きすぎた。胴体と思しき部分よりも大きかった。大きくて、丸かった。

真っ赤な目玉の様なものが二つ、いやに真ん中寄りに、顔らしき場所に埋まっていた。

巨大な頭らしき部分の下のほうに、穴が開いていた。位置的には口のようにも見えるが、それはあまりに小さかった。真ん丸な目玉よりも小さかった。

胴体からは、両腕と両足が生えていた。正確には、前足と後ろ足のように見えた。

前足のほうは胴体よりも明らかに長く、拳が地面に接しても尚、肘が曲がっていた。

後ろ足はあまりにささやかな存在だった。短いというより、足しかなく、脚の部分が無かった。


そして。

そして、頭(の様に見える部分)の上に、浮かんでいた。

金色の輪っかが。

そして、背中(と思われる辺り)に、生えていた。

白い小さな羽が。