「ヨウ、久シブリ」

軽く右腕を上げ、気軽にあいさつをしてくる。

その安穏とした姿が気に入らなくて、わたしは除消を怒鳴りつけた。

「除消、どういうこと、これっ?一体、何が起きているの!」

除消は真っ直ぐわたしを見据え、囁いた。

蚊が鳴くような小さな声で、囁いた。

……この世のものとは思えない声で、囁いた。


「全部消シチマッタンダロ。……オマエガ、ヨ」


……、わたし、が?

「な、なに、言っているの、わたしは、消して、ないよ。学校とか、わたしじゃ、ないもん」

そうだ。

確かに、わたしは消した。

あらゆるものを消した。建物を消した。施設を消した。人を、消した。

でも、今のこの状況は明らかにおかしい。わたしが消した以上のものが消えている。

「わたしじゃない!」

けれども除消は、全然取り合ってくれない様子で。

それがすごく腹立たしくて。

もう一度、叫んだ。


「わたしじゃ、ない!」

「イイヤ。オマエガ、消シタノサ。……辻褄アワセ、デナ」


耳を疑った。聞きまちがい?

「辻褄あわせは、除消の力でなにかを消しても、それ以外のモノには極力影響を与えないように起こるものでしょっ?」

「アア。ダガ、同時ニ言ッタロ?影響ガ大キスギル辻褄アワセヲ起コスノハ、咎ニアタルッテナ」

除消は、長すぎる両腕を後ろ手に組んで、うろうろ、うろうろ、わたしのまわりを動きながら、訥々と、続ける。