驚いたことに、というか恐ろしいことに、わたしがあれだけ咎を重ねたのに。

除消の咎はまだ送りきれていなかった。

天文学的な借金、というのは、大袈裟でも冗談でもなかったみたい。

わたしがせっせと咎を重ねないと、除消はいつまでたっても上界へ戻れない。

いつのまにか、わたしたちの上下関係は、逆転していた。

「大体、前はあんなに偉そうに、何でも消せるって言ってたくせに」

「アノナ、存在ガ確定シテイル、具体的ナモノヲ消スンダヨ、俺ハ。数学ダトカ英語ダトカ、アマリニモ『広スギル』ダロ」

ぶつぶつと言い訳を重ねる除消。まったく情けない。

意識をクラスに戻すと、おおお、と、教室の中がざわめいていた。

どうやら(新委員長の)ガリ勉君が、このテストで良い点数を取ったみたい。わざわざ立ち上がって、答案用紙を見せびらかしている。

小学生でもあるまいし、何をそんな目立とうとしているの。

……、消そう。

「除消、アレなら、いけるでしょ?アレくらいなら、ねえ?」

あらかさまな「上から目線びーむ」を浴びせてみる。

「神様ヲ馬鹿ニシヤガッテ。テメエ、ロクナ死ニ方シネエナ!」

ごしごしごし。

「わたしは地獄に堕ちるんだもん」

あ。

そういえば、あのガリ勉君、名前なんだったっけ?あ、思い出せない。

ま、いいか。もう消しちゃったし。

ちなみに、次の委員長は、わたしと同じくらい、影の薄い男子だった。

……誰もやりたくないから、勝手に投票されて、委員長になっちゃった、ってやつ?


夜。一日の終わり。また明日へ繋がる時間。

こんなに満ち足りた気分で夜を迎えたのは、この町では初めて。

いつも、明日が来るのが嫌で。

何とか明日にならないように、唯一の、自分だけの時間を、もっと長く過ごせるように。

そうやって、夜更かしを続けていたっけ。

朝が嫌だったから。朝が来るのが嫌だったから。

でも、今は違う。

この夜の向こうには、すばらしい明日が待っている。

煌びやかな朝が、わたしを迎えてくれる。

なんて素晴しいんだろう。

わたしは特別。


明日は、わたしのために存在しているんだから。