それはいつもの登校風景だった。

家を出た後、平坦な道のりが続き、長い下り坂があって、そこからまた平坦な道のりになる。

行きの下り坂は、嫌いだった。急ぎたくも無いのに、足が勝手に進んでしまうから。

帰りの上り坂も、嫌いだった。ただでさえ体が重いのに、家がグンと遠くなるから。

学校は好きじゃなかった。面白くなかった。昔はこうじゃなかった。

小学生の頃、あの頃には毎日に色があって。楽しかった。

学校に行くのが楽しかった。

授業を受けるのが楽しかった。

給食を食べるのが楽しかった。

教室の掃除が楽しかった。

家で宿題をするのさえ楽しかった。

友達がいたから。いっぱい、いたから。

あの頃の私は特別だった。クラスのみんなから好かれていたし、みんなが私のことを見ていた。

それが当たり前だった。当たり前だと思っていた。

わたしは勉強の成績が良かった。いつもみんなに褒められていた。憧られていた。

勉強を頑張ったのは、テストで満点を取る為だった。そのためだけに勉強をした。


自分が特別であることを証明する為に。


卒業が近くなって、仰げば尊しの練習が始まって、卒業文集に

「小学校の先生になりたい」

と、将来の夢を書こうと思っていて。


いきなり、父親の転勤が決まって。転校になって。

新しい家は、念願の一戸建てだったけど。マイホームだったけど。

わたしは、泣いて、嫌がった。友達と別れたくなかった。みんなと卒業したかった。

あと三ヶ月、たった三ヶ月、待ってくれればいいのに。

あんなに大好きだったパパは、その日から父親になった。遠くなった。

ママは、私のことを心配してくれた。でも、転勤は変わらなかった。ママには何も出来なかった。ママもただの母親になった。

リュウ君は平気そうだった。呑気に新しい家と学校と友達に、ワクワクしていた。リュウ君も、癇に障る弟になった。