さっきの雑草なんかと、これは明らかに比べ物にならない。

お店を消す? 消しゴムをかけるように? 除消にはそれが出来る。でも、わたしは?

力を使いたい。でも怖い。自分が自分でなくなる。今までの日常が一変する。

わたしにとって、変化は、ひどく恐ろしいもの。


本当にそんなことしちゃって大丈夫なのかな。


逡巡しているわたしの肩には除消が乗っていて。

除消の姿は、そして声は、他の人には見えないし聞こえないそうで。

そんな除消は、わたしの様子に我慢の限界を向かえたみたいで。

耳元で、低い、重みのある声で。

「案外簡単ナモンダゼ。コンナノ、スグニ消セル」

なんて悪魔のささやきをしてきた。神様のくせに。

「でも、中にいる人たちが……」

除消は人も消せるといっていた。見ず知らずの人たちを消すなんて、いくらなんでもやりすぎな気がする。

「大丈夫ダ。中ノ人間ドモハソノママニ、店ダケヲ消スコトガ出来ルゼ」

……、え?

「俺ガ消スノハ『存在』ダ。コノ店ガココニアッタトイウ事実ダケヲ、抹消スルノサ」

言うや否や、除消は羽をばたつかせ、お店のほうへ頭を向けた。

「ま、まって! まだ……」

まだ、心の準備が。

そう言いたかったのに。除消は待ってくれなくて。

ごしごしごし。ごしごしごし。ごしごしごし。ごしごしごし。ごしごしごし。

お店の看板が消えて。天井部分が消えて。二階が消えて。一階が消えて。

あっという間に、そこにあったはずの建物が、消えてしまった。

そこは広い空き地になった。店内にいた客が、従業員が、その人たちの時間が止まってしまった様な感じで、ポカンと立ち尽くしていて。

これは大騒ぎになる。いきなりお店が消えちゃったんだもの。

そう思ったのに。

店内にいた人たちは、まるで何事もなかったかのように、それぞれ、あっちに進み、そっちに進み。

みんな、どこかへ行ってしまった。

わたしの周りにいた人たちも、道行く人たちも、誰一人、騒ぎ出す人はいなくて。

そういえば、除消がお店を消しているときも、誰一人、悲鳴をあげる人はいなくて。

淡々と、その場の空気が流れて。

わたしだけ、ひとり、そこにまだ、立ち尽くしていて。