除消が頭を振ったエリア。そこだけ、雑草が消えている。

わたしを見て、「どうだ」と言わんばかりの除消。

でも、今のわたしにとって、除消の小っぽけな自尊心なんて、全く興味が無かった。

「じょ、除消。何でも消せる、って言ったよね。ひ、人も、消せる、って」

「……アア」

口の端を僅かに上げ、悪い悪い越後屋が、悪代官に媚を売るような仕草で。

「コノ『神力』ヲ、オマエノ為ニ使ッテヤルヨ。オマエガ消シタイモノヲ、全テ、消シテヤル。オマエハ、人カラ神ノ側ヘ立ツンダ。特別ナ存在ニ、ナレルンダゼ」

そう言って除消は、わたしに、右腕を差し出してきた。

同盟を結ぶ為の、小さな右腕を。


……、特別な、存在。

閉塞的な現実。展望のない未来。色の失せた毎日。生きる意味が分からない人生。

……特別になりたい、わたし。

もし、除消の口車に乗れば、わたしは死んだ後、地獄に堕ちることになる。

地獄になんか行きたくない。

でも。

今、重要なことは、わたしが生きているこの現実も、わたしにとっては地獄と同じということ。

生きても地獄。死んでも地獄。

なら、せめて、生きている時の地獄は消し去りたい。

除消の力があれば、それができる。

わたしは、特別に、なれる。


特別になりたい。


特別になりたい。


わたしの心の中で、今まで感じたことのない、どす黒い感情が渦巻いている。

それは、ウゴウゴ、グリグリ、ズルズル、マゴマゴと、わたしの心臓から動脈、毛細血管へと流れ、張り巡らされて。

わたしの体が真っ黒な、煤塗れになって。


わたしは、除消を見た。

除消の表情は悪意に満ちていて。

自分の為に人間を利用しようとするその姿は、とても神様には見えなくて。

でもわたしは、その悪意を、このチャンスを、逃したくなくて。

わたしは、除消の右腕を、そっと、握った。

相変わらず、温かくも、冷たくもない、すべすべでも、ざらざらでもない、奇妙な肌触りだった。

「契約成立、ダナ」

除消の満面の笑みは、やっぱり神様にはみえなかった。