正樹は思い出していた。
美紀を初めて胸に抱いた日のことを。


母である結城智恵の死も知らず、生きている証を伝えようとして懸命に泣いていた小さな美紀を。
この手に、この腕に、この胸に受け止めた大きな生命の重さを。


あの瞬間に感じた結城智恵への恋心。
初恋故の傷み。
その全てを理解し、美紀を養女として育てることを提案してくれた珠稀。
今正樹は改めて、珠稀の大きな人柄に感銘を受けていた。


珠稀の誕生日に真実を告げる羽目になったのは、妻の意志ではないだろうか?
正樹はそう思えてならなかった。