トリプルトラブル【完】

 父親の正樹(まさき)はその声につられて、眠たそうに目をこすりながら手すりのある急勾配な階段を降りて行った。


階段の先には鬼門にある玄関。
そのためにシューズボックス上部には何時も白い花と盛り塩が欠かせない。
白い花と塩は浄化のパワーを持つ。
そう信じられていたからだった。


(――美紀……何時もありがとう)
心の中でそっと呟く。

そして合掌して、まず一礼をする。

ここ五年間欠かしたことのない、正樹の朝一の恒例の行動だった。




階段下から入る和室は壁と襖で仕切られていて、その脇の広いリビングダイニングに続いていた。


正樹の亡妻・珠希の希望でリフォームされた対面式キッチン。
その入り口に掛かる、レース調の長のれん越しに美紀が見える。

朝日を浴びながら甲斐甲斐しく家事をこなすそのシルエットに、正樹は思わず息を呑んだ。


(――珠希!?)

ドキッとした。

美紀が急に大人びて見えたからだった。


(――えっー、あー美紀か……。何時の間にそっくりになったのだろう?)

正樹は感慨深げに美紀を見つめた。