トリプルトラブル【完】

  (――力不足か……
――いや違う。
基本を忘れていたんだ。

――そうかだからキャッチボールなのか?)


秀樹はやっと、コーチの言った『基本はキャッチボールと遠投』の意味を理解した。

直樹に向かって、ただ無心に投げていた子供の頃を思い出しながら。


そして自分の心に決着を付け、やっと覚えたカーブを封印することを決めた。


『あのコーチに付いていけば、甲子園だって夢じゃないよ』
昨日直樹が言ったその言葉を信じてみようと思った。

それは秀樹が少しだけ大人になった瞬間だった。


本当は解っていたことだった。
でも忘れていたのだ。


(――あー、何遣っていたんだろ……)

秀樹はマウンドに立って直樹をみつめた。

ありがとうと言いたくて。


「基本はキャッチボールと遠投か」

秀樹はその意味を模索し初めていた。
そのためにもう一度目を閉じた。
無心になりたくて。