トリプルトラブル【完】

 秀樹は豪速球を売り物にしていた。
勿論捕球は直樹の担当だった。


『基本はキャッチボールと遠投』
昨日、新コーチにそう言われた。


(――その位解ってる)
秀樹は思う。
でも……
早く変化球を覚えたくて仕方ない。


昨日突然コーチが入れ代わった。
この突然の人事。
前任者に全幅の信頼を寄せていた秀樹は納得出来なかったのだ。
投げやりになりイヤイヤ言われた通りキャッチボールをした。


『ストレートもまともに投げられない奴に、変化球が投げられるわけがない!』

大へいな秀樹の態度を見たコーチに、そう指摘されてしまったのだ。


(――もうー!!
解ってる! 解ってる! 解ってるよ!!)
秀樹はムシャクシャしていた。


だからついムキになって、カーブを直樹に向かって投げた。

でもそれはすっぽ抜けた。
慌てて直樹がボールを拾った。


「兄貴どうした?」
直樹が心配して、マウンドに駆け付けた。


「いや、何でもない……」
そう、言おうとした。


「もしかして、カーブだった?」
でも、直樹の指摘に言葉を失った。


「カーブは投げ方を誤ると肘や肩に大きな負担がかかるって言われたろう?」


「うん。俺の場合、手首をひねって親指が上に来るから危険なんだって」