美紀がたじろぐその源は、目の前の日差し除けにあった。

珠希と正樹の思い出が其処にぶる下がっていた。




それは珠希が亡くなる前年の秋。
国民体育大会に出場する珠希の応援に行った時の事だった。

試合の会場に向かう前に、珠希が正樹にキスをせがんでいた。
勇気を……やる気を……
正樹から貰う為だった。


美紀が見ているとも知らすに……
正樹はそれに応じた。


激しいキスを目の当たりにした美紀は心を閉ざした。

恋しい気持ちを封印せざるを得なかったのだ。


美紀は既に、正樹を愛し初めていたのだった。

たとえ、それがどんなに苦しくても美紀は耐えなくてはならなかったのだった。


試合を終えた珠希は、グランドに一礼した後真っ先に正樹の元へ向かった。
珠希が愛してやまない正樹の元へ。


そして二人で思い出の品を買った。


それが今目の前にあるチャームだった。