―キュッ―
シャワーの栓を閉めると、一つ大きな溜息を吐いた。
この家は大きな牢獄。
吹き抜けの頭上高い屋根も、広く作られた大きな庭も、美月にとっては何一つ開放的ではなかった。
同じ屋根の下、血の繋がった母とその義弟だったはずの男が夜毎に肌を合わせている。
考えるだけで体中の血が煮えくり返り、いつでも自分を覚めはしない眠りに放り込みそうだった。
いっそ、それでも良かった。
一思いに息の根を止めてはくれないかと、いつも考えては気が狂いそうだった。
もう一度大きく息を吐くと、バスルームの扉を開けて服を着た。
美月は物心ついた時からスカートを履いたことがなかった。
今日も細身のジーパンに黒のストライプのシャツを着て身支度を整えた。
リビングを抜けて部屋に戻ろうとすると、馨の隣で柔らかく笑う和豊の姿があった。
一気に頭からつま先まで、冷たいものが体を抜けた。
和豊は美月の姿を捕えると、優しく微笑んだ。
「おはよう、美月。今から学校か?」
その言葉にゾッとするほど冷たく微笑むと、まっすぐ和豊を見据えた。
「おはよう、叔父さん。」
すぐに母の顔が曇ったのが分かった。
二年経った今でも、一度も和豊を『父』と呼んだ事はなかった。
和豊も何とも言えずに苦い笑顔を見せるだけだった。
「行ってきます」
二人に背を向けると、美月は部屋に戻り早々に家を出た。
