食堂のテラスに腰かけて、ホットココアをゆっくり口に運ぶ。
ふんわりと湯気を漂わせながら、音も立てずに喉を過ぎていく。
目の前の少女も少し落ち着きを取り戻し、無駄のない動きでミルクティーを飲んでいる。
その姿をじっと捉えながら、美月は未だ答えの出ていない疑問に頭を悩ませていた。
この少女は何者なのか、何故自分の名前を知っているのか、自分のこの感情は何なのか…。
恋しくて仕方がない。
触れたくて、貪りたくて、欲情に近い感情が先ほどから美月を支配していた。
今この少女に触れたら、それだけで達してしまいそうな程、自分の衝動的な欲情は、強い。
理性との闘い。
元々、そう言った類の感情は他人よりはるかに欠落しているはずなのに、この少女の前では自制が効かない。
そわそわと落ち着かないのを悟られないように、長くしなやかな足を組み替えた。
その仕草をうっとりした瞳で見つめると、両手で大切そうに持っていたカップを、ソーサーに置いた。
「突然、あんな事を言ってしまって、すみませんでした。」
まだ、緊張したように、小さな声で頭を下げた。
「あ、いや…」
珍しく余裕のない美月には上手く反論の言葉さえ出てこない。
しかし、幾らかホッとした表情を浮かべると、少し声を張った。
「お久しぶりです。きっと、覚えていらっしゃらないと思うんですが、桜田苺です。」
せっかく名前を名乗られたのに、ピンとこない。
だが、どこか聞き覚えのあるその名前に、しばらく脳内を整理してハッとする。
「苺ちゃん…?蓮華の妹の…?」
「はい!」
嬉しそうな向日葵の笑顔。
—この笑顔、知っている。
一瞬そんな思いが頭をよぎった。