シャワーを浴びてリビングに向かうと、出来たてのフレンチトーストが
甘いメープルの匂いを漂わせていた。
時計は10時を指そうとしていたが、まだ馨と和豊は下りてこない。
顔を合わせたくない美月にとっては好都合だが、胸の内で悪態をつく。
(何してんだか)
ナイフとフォークを手に、軽やかな仕草でトーストを平らげていく。
それをキッチンの奥から見ていた由美が声をかける。
「お嬢様、今日はどちらへ?」
「どうして?」
「お召し物がとてもボーイッシュでいらっしゃるから…」
由美の言葉に今自分が身に着けているものを、確認してみた。
スキニーのクラッシュデニムに白のカットソーを合わせていた。
小物は全てハードにまとめ、黒い革のブレスレットにシルバーのネックレス、スタッズで2連になったベルト。
仕上げは黒のライダースジャケットに、エンジニアブーツを履くつもりだ。
静かに微笑むと、最後の一口をゆっくり口に運んで咀嚼した。
口の前で手を合わせながら、由美の方に視線を向ける。
「大学の図書館に行ってくる。帰りは遅くなるから晩御飯はいらない。」