昼食を食べ終えると、美月には一人決まって向かう場所がある。
午後の講義は14時から始まる。
昼食は遅くとも13時には終え、キャンバスの敷地内にある裏庭へ向かう。
『立ち入り禁止』の札がかけられたそこは、薄暗く昼間でも何か良からぬ者が出てきそうな雰囲気を醸し出している。
もちろんこのキャンバスに通う者であれば、その存在は周知のものでも近づこうとする者はいない。
だが、美月は違った。
一人になりたくてたまたま向かった先にあったこの小さな森が、その日から美月の憩いの場となった。
入り口からずっと奥深く、最奥に向かえば木漏れ日を注がれた二人掛けのベンチ。
丁度そのベンチを覆うように、大きな木の屋根が雨や雪を凌いでくれる。
寒い真冬の日でもこの場所だけは、暖かい光が注がれていた。
そこに座って昼寝をしたり、読書にいそしんだり、一人の時間を楽しむのが今の美月の唯一の癒しだった。
家に居れば息が詰まりそうになる。
作り笑顔で会話を交わし、視線を交える事を頑なに拒み、馨や和豊は美月に気を遣い、ぎくしゃくとした空気が漂っている。
学校に来れば、イメージ先行で自分を見つめる生徒たち、期待と憧れすらにじませる教師たち。
どこにいても心から休まる場所はない。
『ふぅ』っと小さな溜息をつくと、小さなベンチに腰を下ろした。
美月の手には赤と青のラインが入った封筒があった。
フランスに留学中の親友、桜田蓮華(さくらだ れんか)からの手紙だった。
蓮華は美月と同い年で、父の保は和豊の会社の専務を務めている。
故に付き合いは長く、小学校から高校までは同じ学校で共に生活してきたが、デザイナーを志していた蓮華は高校卒業と同時にフランスに旅立って行った。
それでも毎月欠かさず、美月と蓮華は手紙をやり取りし合っていた。
美月は封筒の整った文字を見つめながら、長い指で封を切った。
午後の講義は14時から始まる。
昼食は遅くとも13時には終え、キャンバスの敷地内にある裏庭へ向かう。
『立ち入り禁止』の札がかけられたそこは、薄暗く昼間でも何か良からぬ者が出てきそうな雰囲気を醸し出している。
もちろんこのキャンバスに通う者であれば、その存在は周知のものでも近づこうとする者はいない。
だが、美月は違った。
一人になりたくてたまたま向かった先にあったこの小さな森が、その日から美月の憩いの場となった。
入り口からずっと奥深く、最奥に向かえば木漏れ日を注がれた二人掛けのベンチ。
丁度そのベンチを覆うように、大きな木の屋根が雨や雪を凌いでくれる。
寒い真冬の日でもこの場所だけは、暖かい光が注がれていた。
そこに座って昼寝をしたり、読書にいそしんだり、一人の時間を楽しむのが今の美月の唯一の癒しだった。
家に居れば息が詰まりそうになる。
作り笑顔で会話を交わし、視線を交える事を頑なに拒み、馨や和豊は美月に気を遣い、ぎくしゃくとした空気が漂っている。
学校に来れば、イメージ先行で自分を見つめる生徒たち、期待と憧れすらにじませる教師たち。
どこにいても心から休まる場所はない。
『ふぅ』っと小さな溜息をつくと、小さなベンチに腰を下ろした。
美月の手には赤と青のラインが入った封筒があった。
フランスに留学中の親友、桜田蓮華(さくらだ れんか)からの手紙だった。
蓮華は美月と同い年で、父の保は和豊の会社の専務を務めている。
故に付き合いは長く、小学校から高校までは同じ学校で共に生活してきたが、デザイナーを志していた蓮華は高校卒業と同時にフランスに旅立って行った。
それでも毎月欠かさず、美月と蓮華は手紙をやり取りし合っていた。
美月は封筒の整った文字を見つめながら、長い指で封を切った。
