部屋の窓ガラスから薄く光が差し込む。
今日は生憎の曇り空らしい。
差し込む光と同じように自分も薄く目を開く。

一般家庭には考えられないほど大きな二階建ての家。
地下にはシアタールームがあり、大きな吹き抜けに中庭。
その箱の最上階で、今日も目を覚ます。
上半身を起こして大きな欠伸を一つ。
それは溜息にも似ていて、今日も朝日を迎えた事に絶望を含ませたようでもあった。
短く切られた髪を一かきするとベッドから体を滑らせた。
12畳の大きな部屋の真ん中に置かれたテーブルには、今にも崩れそうな本の山と脱ぎ捨てたライダース。
「だらしないなぁ…」
誰かを戒めるような一言を漏らすと、ライダースは傍らの椅子にかけ、本は壁一面に作られた本棚の空いたスペースへ。

ふと壁掛け時計に目をやると、短い時計が8を指そうとしていた。
「やっべ…」
小さく呟くと部屋の扉を開けて1階に下りていく。
テーブルには一人分の朝食の用意があり、指定席には馨が腰掛けてこちらに柔らかな笑みを向けていた。
「おはよう美月」
「おはよう母さん」
少し目を細めて笑顔を作りかえすと、バスルームの方に歩いていく。
その姿を見止めたお手伝いの由美が、キッチンから顔を出した。
「お嬢様、おはようございます。朝食はどうなさいますか?」
由美は19歳で香田家でお手伝いをして半年になる。
今のご時世、若い少女をお手伝いに雇うなんてこの家は何処まで時代錯誤なんだろう。
美月の中の疑問と不快感は些細な日常の中、この箱庭の中だけでもごろごろと転がっている。
白くレースをあしらったエプロンを着けた由美に微笑みかけると、美月は困ったように眉をハの字にした。
「おはよう由美ちゃん。悪いけど、授業に遅刻しそうなんだ。シャワーだけ浴びて出るよ。」
そう言うと由美は向日葵のような笑顔で「かしこまりました」と返した。