片思いしてます

そして、私が一番この電車の、この車両のこの扉から乗らなくてはいけない理由。





「…」




私は、人の隙間から奥の扉の方を見る。




そこに、一人のスーツ姿の男性。




その人は、いつもその場所で小説を読んでいる。




その人は、細身の長身、歳は20代後半くらい。




スラット長い指で小説のページをめくる。




私は、じっとその様子を見ている。







私は、この人に片思いをしている。







高校に入学して慣れない電車通学が始まり、毎日苦痛だった電車だけど、この人の存在に気づき、毎日見かけるだけで、好きになっていた。





一目ぼれ。





もちろん名前も知らない。




なんの仕事をしているかも知らない。




この乗客を数人挟んだ距離でしか見たことがない。




声も聞いたことがない。




そんなこの人を好きになった。




私は、毎日この人を見るためにこの電車に乗っている。