“奏が事故にあった”
“意識不明の重体らしい”
あたしは、その場に立ち尽くした。
嘘でしょ…?
嘘だと言ってほしかった。
笑って、冗談だよと言ってくれればよかったのに…。
『夢花、行こう』
玲音が当たり前だと言うように、あたしを急かした。
でも、あたしは奏の彼女じゃない。
今の彼氏は目の前にいる。
あたしは隼希を裏切れない。
『……でも』
その場でうろたえる。
『行けよ。夢花、行ってこい』
隼希の声だった。
『……隼希』
『また、連絡する。今は行け』
隼希は強いのに、優しい口調で言った。
あたしは
『ごめん』
と言って、玲音の後を追った。
玲音の黒い車に乗り込んだ。
お願い…
奏、無事でいて…。
車の中で、涙をためながら祈る。
奏は幸せになるんだから…
今ここで死んだらダメだから。
奏……
嫌だよ…。

