『…でも、俺の入る隙なんてなかったろ?奏と夢花にはさ…。
それに、俺には夢花を手に入れる勇気も自信もなかった。
夢花が奏を見てたようにさ…
俺も夢花を見てたよ…。
すごく大事な存在だった。
それは今も変わらないよ。
けど、今は恋愛感情としてじゃなく大事なんだ。
なんか、父親みたいな感じかな。
俺はいつまでも夢花に幸せでいてほしい』
『玲音…。ごめん、あたし何も気付かなかった。
ありがとう。大切にしまっとく』
玲音はすごく優しい顔で笑った。
あたしたちは、島根での想い出を話しながら東京を発った。
しばらくして着陸のアナウンスが流れ始めた。
あたしは目を閉じた。
あの頃が蘇ってくるような感覚。
胸が少しだけドキドキする。
毎年、あの日には来ていたはずなのに…その時とは違う感じがする。
それはきっと奏に会うから。
島根の地を踏んだ瞬間…
あたしの胸は激しく高鳴って…
涙がこみ上げてきた。
時間が巻き戻されたみたいだった。

