君の隣





『夢花…』






『奏、ありがとう。奏がいなかったら今のあたしはいないから』





これが愛の言葉なら、こんなに苦しくならなかったはずなのに…




今のあたしたちの前にあるのは、別れ道だった。





『俺は…夢花を全部受け止めて、包んでやりたかった』





奏の瞳は悲しげで、涼しかった。




『もぅ、充分だよ』





奏は下を向いたまま、何も言わなかった。





『奏、最後にお願い聞いて。

幸せになって。

あたしは、奏の幸せそうな笑顔が好きだったの。

奏が笑ってれば、あたしも幸せになれる。

奏は幸せにならなくちゃいけない。

他の誰よりも、幸せにならなくちゃいけないの』






『夢花』





顔を上げた奏はあたしをまっすぐ見つめてた。





行けなくなるから。




そんな瞳で見ちゃダメ。





『さよなら、奏』




こらえた涙で声が震えた。




あたしは奏に背を向けて、駅までの道を歩いた。





涙が頬を伝う。





別れ道




君の隣を去って




大切な君に背を向けて




あたしは



君と別の道を歩き出す