―奏side―
夢花が東京に行ってしまった。
それは俺にとって、すごく大きな出来事で…
大切な物を盗られてしまった感じだ。
心に大きな穴が空いたような
そんな感覚…。
当たり前だった
夢花の笑顔も
声も
泣き顔も
つまんない口喧嘩も
もう 何もない。
大丈夫―。
夢花にはそう言ったけど
自信がないのは、俺の方なんじゃないか…?
夢花の気持ちが変わってしまうんじゃないか…?って。
夢花と離れて、夢花の痛みや孤独を癒せるのか…?って。
夢花が1人で泣いていても抱きしめてやれない…。
また、夢花が壊れてしまうかもしれない…。
何で
俺はいつも大事な時に何もしてやれないんだろう…?
夢花を誰よりも愛して
夢花が誰よりも大切なのに。
幼い俺は、大切な人を守るコトもできない。
そばにいるコトさえも
今はできないんだ。
夢花が東京に発った日
家に帰って、誰にも分からないように泣いた。
最後の夢花の目には涙がたまっていて、離れたらその涙をふいてもやれないコトに気づいた。
愛しい…
夢花を想って、涙を流した。
弱いのは
俺の方かもしれない…。

