『夢花…』
愛しい人が、あたしの名前を呼ぶ。
その声だけで、こんなにも切なくなる。
あたしは、涙を目にためながら奏を見つめた。
『俺は、いつも夢花の味方だが。
こんなに、他人のコトを想って、愛しくて、切なくて、苦しくなったのは初めてだが。
夢花は、俺の全てだが。
俺は悔しいくらい、夢花を好きになっとる。
その声も…
笑顔も…
泣き顔も…
怒った顔も…
夢花の全てが愛しい。
どぎゃん離れとっても、俺の気持ちは変わらんけん』
奏はあたしのコトを強く強く抱きしめた。
奏の腕の中は、安心できて涙がこぼれそうになった。
唇をかみしめて、こらえる。
時間はどんなに願っても止まってはくれないから…
奏との未来を信じて、あたしは行かなきゃいけない。
電車のベルがあたしたちを引き裂くように鳴り響いた。
名残惜しそうに、奏はあたしを離した。
愛しい人から離れて、あたしは電車に乗り込んだ。
窓をあけて、もう一度奏を見た。
『奏…!絶対大丈夫だよね…!?
あたしは、奏を想い出に、過去にしたりしない…!
ずっと、一生、想うから…!
絶対に帰ってくるから!!』
『何も心配しなくていいが…!
俺には、夢花だけだが!!
他は何も見えんくらい、好きだが!』
『奏…!愛して……』
ジリリリリリリリ―
発車のベルがあたしの言葉を消す。
君には届いたのだろうか…?
運命が大切な物をさらっていく。
大切な人がだんだん見えなくなっていく…。
大丈夫―。
その言葉を何度も繰り返した。

