「いらっしゃいませ〜」


7時を少し回った頃、威勢の良いスタッフの声が聞こえた。


その声に、びしっと背筋が伸びる。


この待機用の席は、入口に1番近く、入って来るお客さんが見る事が出来る。


どんな人だろう?


フリーのお客さんなら、いつかは自分がつく可能性だってある。


その方向を見つめ、ようやく見えたその姿に、あたしは、「あっ…」と、小さく声を上げた。


翼の方を振り向くと、笑顔でピースサインを作っている。


間もなくして、スタッフがこちらにやって来た。


「椿さん、ミライさん、ご指名です」


そう、そのお客さんとは、あたしが初めての人…


斎藤さんだった。


「わ〜い、来てくれてありがとう!」


のっけからハイテンションの翼に圧倒されながらも、あたしは感謝の気持ちを込めてお礼を言うと、斎藤さんの隣に腰をおろした。


「とりあえずビールで」


「あたしも頼んでいい?」


すかさず尋ねる翼に感心しながらも、「頼め、頼め」と、豪快に笑う友達の言葉に、翼はビールを、あたしはカシスオレンジを注文した。


みんなに合わせてビールを頼もうとしたあたしに、斎藤さんがメニューを差し出して、「無理しなくていい」と、言ってくれたから。


この前もウーロン茶を頼んだ事を覚えていてくれた、斎藤さんの優しさに感謝した。