「でも、先輩は優しいんかズルイんか、そんなあたしを突き放さへんかった」


今までは、冷静を装って話し続けていた奈美。


「彼女の存在を知って、最低な事してるんも分かってたけど」


その声が、少しずつ震えていくのが分かった。


「あたしとは3年、彼女とは1年やで?あたしが近くにいたら、あたしを選んでくれるって…」


信じてたんだよね?


先輩の愛情と、幸せな未来を…


でも、現実はそうじゃなくて。


いつまでたっても、彼女と別れない先輩。


今回の事で、連絡が途絶えた先輩。


「先輩はあたしじゃなく、あの人を選んだ…」


そう言った奈美の目は、うっすらと潤んでいた。


「そう思ったら、あたしは何の為に、ここまで来たんやろうって。あほみたいやろ?」


何の為に…


そう思ってしまう気持ちも、分からなくはないけれど。


「でも…」


あたしは奈美と出会えて良かった。


将来の夢を語れて嬉しかった。


先輩の為だったとしても…


辞めて欲しくないよ。


あたしはその思いを、必死に奈美に伝えた。


奈美の頬に、一筋の涙が伝う。


「ありがと。でも、もうちょっとだけ考えさせて」


奈美は頼りなく笑って、あたしにそう告げた。