oneself 後編

重たい空気が流れる。


真剣な顔で見つめるあたし。


奈美はゆっくりと口を開き、ポツリポツリと話し出した。


先週の日曜日、奈美は立川先輩と会っていた。


たいてい日曜日は、彼女と過ごす先輩。


でもその日は、彼女は用事があるとの事だった。


「先輩の家に行きたい」


そんな奈美の希望通り、その日は先輩の家でDVDを見て過ごした。


先輩も奈美と同じく、一人暮らしだった。


それは、ここから歩いて数分の距離のマンション。


今思えば、相手の作戦にまんまと引っ掛かったのだと奈美は話す。


夜の11時過ぎ。


帰宅途中の奈美は、自分の後をゆっくりとつけてくる、黒いワンボックスの車の存在に気付いた。


「最初は気のせいかなって思ってんけど」


いくら交通量の少ない道路だとしても、歩く自分の速度を追い抜かせないほど、ゆっくりと走る事などないと、不審に思ったという。


「心当たりはないん?」


「その時はなかってんけど…」


そう言って奈美は、きゅっと唇を噛み締めた。


「家に着いたら、非通知で電話かかってきた」


「えっ、誰から?」


奈美はフーッと溜息ともとれるような吐息を吐き出すと、「沢井先輩」と、弱々しく答えた。