鳴り止む事のない空調機の音だけが、響くこの部屋。


短い沈黙の後、哲平は少し明るめの声で、あたしの頭を撫でながら言った。


「未来の気持ちは、分かってるから」


それが、今の不安な気持ちを分かってくれたのか。


どうしても、仕事を続けたかった気持ちを分かってくれたのか。


分からないけれど。


何となく、それを追及するのはやめた。


「浮気すんなよ」


引き続き明るい声で、茶化すように、あたしの頭を軽くこづく哲平。


「うん」


哲平の心臓の音。


哲平に触れている温もり。


あたしはそれを噛み締めながら、深く頷いた。


「明日も早いのに、俺のせいでごめんな」


そう言って、ゆっくりとあたしから離れる哲平。


「大丈夫」


あたしはその体をもう一度引き寄せて、哲平の唇に、自分の唇を重ねた。


「哲平…」


「未来…」


折れそうなほどに抱き締める、腕の強さだとか。


触れ合った部分から伝わる、肌の熱さだとか。


それを必死に感じながら、あたしは哲平に抱かれた。


ねぇ、昔この部屋に来た時の事、あたし思い出したよ。