最後の欄を書き終え、店長に「よろしくお願いします」と添えて、差し出した。


「念の為、身分証明書のコピーだけいい?」


事前に翼に言われていた、用意してきた保険証と学生証を鞄から取り出す。


「おい、これコピー!」


そう叫んで、さきほどのスタッフを呼び付けた。


「あ、源氏名どうする?」


店長があたしの顔を覗き込む。


源氏名


テレビでも聞いた事がある。


ここで働く為の名前、芸能人で言えば芸名みたいなものだ。


何も考えてなかったあたしは、隣の翼に助けを求めた。


携帯をいじっていた翼はあたしの視線に気付き、「ん?」と首をかしげる。


「本名でもいいし、こいつの場合は椿」


そう付け加える店長に、翼はすぐに理解したようだった。


「う〜ん、何か付けたい名前とかある?お店の子とかぶってると駄目だけど…」


本名にするのは抵抗がある。


せっかくだし、かわいい名前がいい。


翼の場合、一文字違うだけだけど、椿という名前も、彼女の凛としたイメージに良く合っている。


三人は無言のまま、しばし考えていた。


すると、記入した用紙とあたしの顔を交互に見ながら、店長が声を上げた。


「ミライちゃんは?」