枕元で、携帯が陽気な音楽を奏でている。


体にけだるさを感じながらも、携帯に手を伸ばす。


哲平の指定着信音。


設定の着うたフルは、もう終わりかけで。


あたしは慌てて携帯を手に取ると、通話ボタンを押した。


「もしもし」


「ごめんな、寝てた?」


電話越しに聞こえる、愛しい人の声。


壁時計に目をやると、もうお昼の1時を回っていた。


あれから、7時間くらい寝てたんだ。


「ううん、さっき起きた」


何となく、そう答えた。


「そっか。今から地下鉄乗るし、また家出る時にでも連絡して」


電話の後ろから聞こえる、券売機の音。


あたしは「分かった」と言い、電話を切ると、軽く伸びをして、1階へと降りた。


「おはよう」


テーブルの上に発見した菓子パンを手に取り、台所に立つ母親に声をかける。


「おはようって、もうお昼やんか」


いつもと変わらない母親とのやり取りにホッとし、椅子に腰掛けると、手に取ったクリームパンを口にした。


このクリームパンは近所のパン屋で売っていて、甘さ控えめのクリームがたっぷり入っている。


うちの家族みんなが大好きなパンだった。