「あたしこそ緊張してますよ。初めてで上手く話せなくて…」


あたしは少しでも彼と打ち解けられるよう、精一杯の笑顔でそう言った。


そんなあたしに、前田さんも「良かった。嫌われてなくて」と、初めて笑った顔を見せてくれた。


「嫌うだなんて…」


「こんな口下手な客につくなんて、迷惑やろなって思って」


そうして、少しずつ会話が続いていく。


前田さんはキャバクラには今まで1度しか行った事がなく、今日も波多野さんに誘われて、無理やり連れて来られたと言った。


「初めての相手とポンポン話せる人が、ホンマ羨ましいわ」


フーッと軽く溜息を吐きながら、波多野さんの方を恨めしそうに見る前田さんに、思わず笑ってしまう。


でも、あたしだってそうだ。


おもしろい事だって言えないし、盛り上がるような事も出来ない。


お酒だって苦手なのだ。


翼のような性格の子が羨ましい。


でも前田さんは、そんなあたしだからこそ、指名を入れたと言ってくれた。


いかにも、というような女の子は、苦手なのだそうだ。


「ミライちゃんは普通の女の子って感じで、イイなと思って…」


そう言って、恥ずかしそうに頭を掻く彼。


じゃあ本当に、前田さんの意思で、あたしを指名してくれたんだ。


それが分かったら、やっぱり嬉しくなった。


「ありがとうございます。嬉しいです」


素直に思った事を声に出して言った時、あたしは自分でも、イイ顔で笑えているのが分かった。