まさか…ね?


友達の手前、指名してくれたんだよね?


「って事で、ミライちゃん仲良くしてあげて」


メールなら語尾にハートマークがつきそうな、そんな調子で波多野さんがあたしに向かって微笑む。


「お前もちょっとくらい話せよ。ミライちゃんが困るやろ」


そう、彼にも付け加えて。


言いたい事だけ言って、二人はまた楽しそうに話し出す。


あたしは、なおもうつむいたままの彼を、黙って見つめていた。


そんなあたしの視線に気付いたのか、彼はようやくゆっくりと顔を上げた。


「ごめんな、こういうとこって苦手で…」


聞こえるか聞こえないか、分からないくらいの声で、初めて彼が話しかけてきた。


「えっ?」


あたしは聞き取りにくかった為、少し彼に顔を近付けた。


「ごめん、緊張してるねん…」


「えっ?」


今度は聞き取りにくかった訳じゃない。


ただ、キャバクラに来て緊張する男の人もいるんだという事に、驚いたのだ。


さっきから「えっ?」としか言わないあたしに、前田さんは困ったように、次の言葉を探しているようだった。


そんなに悪い人じゃないのかも知れない。


きっと波多野さんの言葉を受けて、彼なりに頑張ってくれているんだと思った。