そんなあたしの失態にも関わらず、彼は笑って言った。


「いや、別にええねん。俺がミライちゃんの立場なら、そう思うやろし」


そして、彼はもう何年もの月日の中で、ヒナタさんとは親子のような関係になったと言った。


「最初は意地でも愛人にでもしたろうと思ってたけどな。かわされまくって気付けば5年や。でもまぁ、俺はこの店が好きやしなぁ。年金生活になっても飲みに来るで」


そう言って彼は、ゴクリとブランデーを飲み干した。


あたしは急いで氷の容器に手を伸ばす。


「ゆっくりでええで」


緊張するあたしの表情を見とってか、彼は優しく言ってくれた。


結局、お店は待機用のソファーを除く全ての席が埋まり、交代する女の子がいなかったのか、あたしは40分間を望月さんの席で過ごした。


彼は本当に話上手な人だった。


あたしは時には笑い転げながら、彼の話に耳を傾けた。


そろそろ交代の時間が来る頃。


彼は少しだけ真剣な顔で、あたしに問いかけた。


「ミライちゃんは、この先も続けるんか?」


突然でびっくりした。


それは自分でも、まだ分からない事。


それにヒナタさんを指名する彼にとっては、さほど関係のない話なのに。


もちろんの事、あたしは返答に困った。


彼はそんなあたしを突き詰める風でもなく、優しく言った。


「まぁこの先もおるなら、俺はちょこちょこ飲みに来るから。またついた時はよろしく」


ゆっくりと差し出された右手。


あたしはその手に、自分の手を重ねた。


「こちらこそ」と、添えて。


自分の父親と同じくらいの人の手を握るなんて、初めての事だった。


でもそれは、ちっともいやらしくなくて。


望月さんの人柄が、そうさせるのだろうと思った。