哲平は最後の最後まで、あたしの手を握っていた。


あたしはそっと哲平を引き離し、ゆっくりと立ち上がる。


そして、その手を振りほどいた。


「バイバイ」


今までで一番の笑顔で、さよならを告げる。


いつかあたしの事を思い出す時。


不安で曇った顔よりも、嫉妬で歪んだ顔よりも。


笑顔のあたしを浮かべて欲しいから。


部屋の扉をゆっくりと引く。


その背中に。


哲平の声が聞こえた。


「俺はお前と結婚するから…」、と。