「嘘やったんやな」


獲物を捕らえた蛇のように、鋭い視線。


昨日と同じく、開店と同時にやって来た前田さんは、明らかに怒った表情で、そう言った。


「ごめ…」


「言い訳なんかいらんし!」


あたしの言葉に被せ、大声で怒鳴る彼の声が店内に響く。


スタッフがそれを見て、心配そうな顔でこちらを見つめていた。


「ごめんなさい」


あたしは頭をもたげ、もう一度そう言った。


ドンッ!


ガシャンッ!


その物音に一瞬体をビクつかせ、一度瞬きをしてから、床に目をやると…


さっき作ったばかりの焼酎の水割りのグラスが、床の上で無残に砕け散っていた。


彼はいくら怒っても、それを床に投げつけるような乱暴な真似をする人じゃない。


おそらく、テーブルを勢い良く叩いた拍子に、グラスが転げ落ちてしまったのだろう。


その証拠に、砕け散ったグラスの破片を見つめながら、1番驚いていたのは彼だった。


「お客様」


その物音を聞きつけたスタッフが、慌てた様子でこちらに駆け寄ってくる。


「すいません」


そう言いながら、破片を拾い集め出す前田さん。


あたしも足元の破片に、手を伸ばした時だった。


「ミライさんはちょっとこちらへ」


強引に腕を引っ張るスタッフ。


あたしはその手に引かれるまま、バックルームへと連れられた。


背中に、「まだ話は終わってない!」、そう虚しく響く、前田さんの声を聞きながら。