翌朝。


あれから少しウトウトとしてしまったあたしは、結局、仕事に出かける斎藤さんと一緒にホテルを後にした。


「寒いね」


コートのポケットに手を突っ込み、肩をすくめる斎藤さん。


その時、すぐ斜め前で、女性の声が聞こえた。


「邪魔やねん」


ケラケラと笑いながら、千鳥足で通り過ぎて行く二人組の女性。


そして、そう言われたであろう老人は、申し訳なさそうに頭を下げている。


そんな光景に、ふいに目があった斎藤さんは、苦笑いをしていた。


おそらく、どこかのホストクラブへ行った帰りだろう。


彼女達の風貌を見て、何となくそう思った。




「じゃあ、ここで。またね」


改札を指さしながら、斎藤さんはあたしを優しい瞳で見つめる。


「また…」


そう言いかけて口ごもるあたしに、斎藤さんは何も言わずに小さく首を横に振った。


彼はあたしの事情を知らなくても、何らかの気持ちの変化を察したんだと思う。


「ありがとうございました」


あたしは深く頭を下げた。


そうして、斎藤さんは改札の向こうに消えて行った。


あたしは自分の乗る地下鉄の駅へと、ゆっくりと歩き出す。


その時、携帯が何度も何度も震えていた事になんて、全く気が付かないまま…