その後、斎藤さんはソファーに移り、煙草を吸いながら、何事もなかったかのように、あたしと出会った頃の話を始めた。


一生懸命な子。


それがあたしの第一印象だったそうだ。


哲平と付き合う前、同じような事を言われたな。


そんな事を思い出した。


お店にもお客にも、全てにびくつきながら、それでも頑張ろうとするあたしを見て、


「この子にはこの仕事には向いてないんじゃないの?」


そう思ったらしい。


それを聞いて、少ししょげた顔をしたあたしに、斎藤さんは、「いや、誉めてるんだよ」、と言った。


不思議そうにするあたしの顔を見つめながら、斎藤さんは少し笑った。


そして、煙草を揉み消し、ゆっくりとあたしの隣に戻って来る。


「ミライちゃんが今日ここに来た時は、正直焦ったよ」


そう言いながら、布団を被った彼は、「始発まで、少し寝なよ」、そう付け加えて、あたしの頭をポンポンと叩いた。


こんなに良い人を。


利用しようとした、自分のずるさが心底嫌になった。


これが斎藤さんじゃなかったら。


あたしは哲平と同じ道を辿り、同じ罪を背負っていた。


隣で目を閉じる斎藤さんを見つめ、「ごめんなさい」、心の中でそう呟く。


そして、始発までの数時間を。


あたしは目を閉じて、記憶を辿りながら。


忘れかけていた、大切な何かを。


必死で思い出そうとしていた。