oneself 後編

「何か暗いね?」


ブランデーの水割りを一口飲んで、心配そうに首をかしげるのは、2カ月ぶりにお店に来てくれた斎藤さんだった。


年末年始を挟み、久し振りの再開なのに、態度に出てしまうほど、不安になっている自分に。


正直うんざりした。


「何でもないですよ」


そう言って、笑顔を作って見せる。


「無理して笑うなよ」


そんな台詞を、あたしが重荷に感じないように、少し冗談っぽく言ってくれる。


そんな彼に、思わず涙腺が緩む。


本当は、あの日を境に、もう哲平を信じられなくなった。


どれだけ平気なふりをしたって、裏切られた事実も、傷も、消える事はないという事を分かってた。


あれから毎日、頭に浮かぶ”別れ”の文字。


それでも、好きだった。


離れる勇気なんてなかった。


何も言わずに、ただ潤んだ目をするあたしを、斎藤さんは黙って見つめていた。


そしてあたしは、その瞳から視線をそらす事なく、見つめ返していた。


斎藤さんのような人と付き合ったら、幸せなんだろうな…


慣れないブランデーを飲んで、少しぼんやりとした頭で、そんな事を思った。


「今日お店が終わった後、付き合ってくれないかな?」


それは、今までそんな事は一度も口にしなかった彼からの。


思いがけない誘いだった。