「椿さん、5番テーブルのお客様、指名です」


頭の後ろで、スタッフの声が聞こえる。


「あ、来たんだ!」


ポーチを掴み、嬉しそうに立ち上がる翼。


あたしは5番テーブルの方へ視線をやった。


そこには、私服姿の若そうな二人組。


「ミライさんも、お願いします」


「あ、はい…」


ゆっくりと腰を上げ、もう一度、前髪を梳かす。


小さく深呼吸すると、翼と目が合った。


「波多野さんイイ人だし、きっと友達もイイ人だよ。頑張ろうね!」


そうだとイイけれど…


その友達は、あたしを場内指名してくれるのだろうか?


翼の頑張ろうという言葉は、きっとそういう意味だよね?


初めての席で取れたのは、本当にラッキーだっただけで。


次の席でも、同じようになるとは限らない。


「よし、行こう!」


5番テーブルに向かって、ゆっくりと歩き出す翼。


あたしはプレッシャーを感じながら、その後ろ姿を追い掛けた。


「波多野さん、今日はありがと〜」


元気に挨拶する翼に続き、あたしも笑顔を作って、声のトーンを少しだけ上げみた。


「初めまして、ミライです」