そして迎えた、バレンタインデー。


平日にも関わらず、今日は開店時から客が入っている。


そして、あたしも着替えてすぐに、この席に呼ばれた。


「いつもありがとうございます」


そう言ってチョコを手渡す。


「これって俺だけ?」


そんないつもの台詞を口にするのは、今日は作業着姿の前田さんだった。


「そうですよ」


「ふ~ん」


最近、前田さんはあたしを疑っている。


彼の中では、あたし達は恋人同士で。


仕事を早く辞めろだとか、他の客には一切外で会うなだとか、今までも再三言われてきた。


それでも、愛想笑いと思ってもいない言葉を添えて、何とか今日までやってきた。


「俺以外の客と、ホンマは付き合ってるんやろ?」


これも何度目だろう?


哲平の存在に気付いてないだけマシだが、何の根拠もない疑いをかけてくる前田さんに、正直あたしはうんざりしていた。


いい加減、彼の方から離れてくれたらいいのに。


結局その日、前田さんは1時間で帰って行った。


でも、その後も数名の指名の客が来てくれたり、お店自体も賑わっていて、あっという間に時間は過ぎていった。