家に着くと、あたしは風呂場に直行した。


熱いシャワーを頭から浴びる。


こんな記憶、流れてしまえばいいのに。


いや、あんな事実ごと、流れればいい。


そんなありえもしない事を考えている自分がおかしくて。


また鼻で笑った。




お風呂からあがると、少し冷静さを取り戻し、奈美にメールを送った。


「いきなり帰ってごめんね」、と。


奈美からは、「大丈夫だよ」、と返事があった。


何も聞かずにいてくれる奈美の優しさに、目が潤んだ。


そういえば、あんなショックな事があったのに、あたしは泣かなかった。


不思議。


心臓が止まるかと思うほどの事実を目の前にした時、人は泣くのさえ忘れてしまうのかも知れない。


そんな事を思った。


哲平の事は、考えたくなくて。


友達の事を思い浮かべた。


幸子はもう落ち着いたようで、「今は仕事が生きがいだ」、そう言っていた。


香や奈美も、辛い恋愛を経て、すごく大人になったような気がする。


あたしは…?


結局、哲平の事に辿り着いた。


そんな自分にうんざりしながらも、あたしはゆっくりとベッドの中に潜り込んだ。