どれくらい、その場に座り込んでいたのだろう。


膝に当たるアスファルトの冷たさと、通り過ぎる自転車のブレーキの音に、ふと我に返った。


あたしは未だ朦朧とする頭でゆっくりと立ち上がると、鞄の中から携帯を取り出した。


ピッピ…


あたしは今、何をしているのだろう?


そもそも何故、二人を追いかけたのだろう?


そんな事を、頭の片隅で考えていた。


呼び出し音にそっと耳を澄ます。


「もしもし」


少し気だるそうな哲平の声。


「ごめんな、寝てた?」


そう言ってあげた。


そう言って欲しそうな声だったから。


「ああ、寝かけてた」


こんな状況で、何かを期待していた訳ではないけれど。


いや、もしかしたら、すごく期待していたのかも知れない。


無意識でかけた哲平への電話で。


何かがくつがえる事を。


でも哲平は…


やっぱりあたしに嘘をついた。


「そっか、起こしてごめんな」


あたしはそう言うと、何事もなかったかのように電話を切った。


パチンと閉じた携帯の音が、やけに虚しかった。