それから1週間ほどが経ったある日。


「今日、時間ある?」と、改まって翼が聞いてきた。


夏休みは毎日一緒にいて、飽きもせずにお互いの事を話していた。


でも学校では奈美も一緒で、そういう話をする機会はなかったから。


翼とハル君の事も聞きたいし、あたしと哲平の事も聞いて欲しい。


あたしは快くOKした。


その時…


翼が思い詰めた顔をしている事になんか、ちっとも気付かずに。


学校近くのカフェに寄り、ケーキセットを注文する。


そういえば今日は水曜日で、普段なら翼はバイトに出勤している日だ。


「今日はバイトないん?」


「うん…」


どことなく沈んだ表情の翼。


「どうかしたん?」


そんな問いかけに、翼は長い溜息をつく。


あたしはテーブルの上に組まれた翼の手に視線を移した。


その手にギュッと力が込められたのと同時に。


頭の上で翼の声が聞こえた。


「話したい事がある」


もう一度、翼の顔に視線を戻す。


やっぱり翼の表情には元気がなかった。


「話したい事?」


運ばれてきたドリンクを一口飲み、翼の目を見つめる。


「うん」


そう言ったっきり何も言わずにケーキをつつく翼に、あたしも仕方なくフォークを手に取った。


何となく…


嫌な話のような気がして、胸がざわついた。