oneself 後編

お店に着くと、本当に客は一人もいなかった。


普段よりも大きな声で、「いらっしゃいませ~」と叫ぶ従業員に、少し緊張する。


そう感じたのは、それだけ普段の雰囲気とは、違ったからかも知れないけれど。


哲平は隣にゆっくりと座ると、もう一度あたしに謝った。


あたしは「気にしてないよ」と笑った。


実際、今まで数回お店に来た時は、あたしが哲平に会いたいが為に来ていた。


お金が落ち着いた今、特に高いボトルやシャンパンをおろす訳でもなく、1万円前後の出費くらい、痛くも痒くもなかったけれど。


これじゃ他の客と変わらないじゃないかという、小さな不安もあった。


でも今日はそうじゃない。


哲平が無理を言えるのは、あたしが彼女だから。


お金を持ってくれるのも、あたしが彼女だから。


それならもっと頼って欲しいくらいだ。


哲平は少し安心したように、「何か飲もう」と笑った。


席には、他の従業員もやって来た。
 

一人はコウキさんだった。


もう一人は、最近入ったばかりの新人の子だった。


世間話をしたり、ゲームをしたりと、初めて一人で来たあたしを気遣ってか、みんなが盛り上げてくれているのが伝わった。


最初はすごく楽しかった。


30分ほど経った頃、ようやく二人組の客がやって来て、コウキさんは席を離れた。